【野球】＜小林信也＞プロ野球の開幕をもろ手を挙げて歓迎できない理由...「お祭りムードに違和感を覚えるのは私だけだろうか」

無観客、「リモートマッチ」の危険性 地上波中継の「天国」と「地獄」

　6月19日（金）、プロ野球が開幕する。

　日本野球機構（ＮＰＢ）ではテレビコマーシャルまで打って、華やかに開幕をアピールしている。そのお祭りムードに違和感を覚えるのは私だけだろうか。

　今回の開幕を私は「プロ野球の存亡がかかる一大事」だと感じている。

　もし「開幕ダッシュ」に失敗すれば、プロ野球はいよいよ「人気随一の国民の娯楽」の看板を下ろすことになるだろう。

　開幕ダッシュと書いたのは、どこか特定の球団が独走するという意味ではない。プロ野球自体の人気や注目を指している。これが不発に終われば、という意味だ。

　巨人対阪神の開幕3連戦は日本テレビ系で地上波中継が予定されている。3戦目（日曜）は関東ローカルだが、金、土曜日は全国ネットだ。続く巨人対広島戦も最初の2試合が地上波で中継の予定。コロナ禍でテレビもコンテンツ不足に悩む中、ここ数年、地上波から見捨てられていたプロ野球が「期待のコンテンツ」に浮上した形だ。

　プロ野球は千載一遇のチャンスを生かすことができるか？　もし視聴率が振るわなければ、あっと言う間にプロ野球への期待はすぼみ、「やっぱりオワコンだった」の烙印（らくいん）を押され、二度と地上波コンテンツに復活できない可能性がある。

　約3カ月遅れの開幕は、それほどプロ野球にとっては、人気復活のチャンスであり、ピンチと背中合わせの正念場でもあるのだ。

　ところが、当事者（ＮＰＢや各球団関係者）たちは危機感を抱いている様子がない。日本中の誰もがプロ野球の開幕を待ち望み、「試合さえやれば必ず注目される」と決め込んでいるようだ。その甘い思い込みが既にプロ野球の危うさを物語っている。

●　プロ野球が開幕する意味は何か？ 「コロナ後の社会」へのメッセージが一切ない

　なぜプロ野球はリスクを冒して開幕するのか。

　「本来あったものだから」「やるのが当然」、そんなメッセージしか伝わってこない。

　「みんながプロ野球を待っている」「開幕すれば日本社会に元気を与えられる」――。

　当事者はそう思い込んでいる。あるいは、リーグ全体の収益を確保するため、「始めなければビジネスが立ち行かない、だからやる」という切羽詰まった決断のようにも見える。

　当初は「無観客」での開催をせざるをえない。これも実は危険な要素だ。

　ここ数年、プロ野球は「観客動員が増えている」という数字が「人気がある」裏付けにしてきた。また観客動員をベースに球場内での販売収入や広告収入を確保し、ビジネスモデルを組み立ててきた。

　ネットのアクセス数が期待通りに得られなければ、ビジネスモデル崩壊の危機にも瀕する。6球団が共同して「パ・リーグＴＶ」などの事業を展開し、ネットの活用に努めてきたパ・リーグ球団はまだしも、セ・リーグはファンと試合をネットでつなぐ土壌を十分につくってきたとは言い難い。そうした組織的な不備を見直さず「見切り発車」する危うさも心配だ。

　一方で、今の日本社会はどう受け止めるだろうか。

　誰もが、予期せぬ現実の前に「自粛」を強いられ、経済的にも精神的にも苦しい数カ月を過ごしてきた。その暮らしの中で、それぞれが嫌でも人生を見つめ直すしかなかった。

　老舗の料理店や名店さえ「廃業を決めた」といったニュースが連日報じられている。コロナ禍を機に、生き方を変える人、それを決断せざるをえない人たちが大勢いるのだ。

　野球界はどうだろう。何か従来の姿勢を見直しただろうか。

　全ての分野で、「コロナ後」の生き方は「コロナ前」と根本的に転換しなければ新しい価値観にフィットしないと認識されている。言い方を変えれば、いち早く「価値観の変化」や「社会のニーズの変容」を理解し、対応できた分野が伸び、旧態依然のやり方にあぐらをかく分野は淘汰されるに違いない。

　今のところ、プロ野球界からは全く「新しい方向性」「コロナ後に向けた明確なメッセージ」は伝わってこない。

　従来の課題を見つめ直し、生まれ変わる努力をした形跡もない。球界がやったのは、せいぜい「感染対策」だけだ。

2020.6.19 4:40ダイヤモンドオンライン
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